環境大臣宛、日高山脈を含む新国立公園の名称に「十勝」を入れないことを求める署名活動
北海道自然保護連合に加盟の5団体(十勝自然保護協会・大雪と石狩の自然を守る会・ユウパリコザクラの会・南北海道自然保護協会・一般社団法人北海道自然保護協会)は、環境大臣宛てに、日高山脈を含む新国立公園の名称に「十勝」を入れないことを求める署名活動を始めました。
以下に署名の趣旨(署名用紙の前文)とその理由について掲載します。賛同いただける方のご協力をお願いいたします。締め切りは2024年4月12日です。
環境大臣 伊藤信太郎 様
日高山脈を含む新国立公園の名称には「十勝」を入れないでください
日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に伴い、2月22日の中央環境審議会自然環境部会で「日高山脈襟裳十勝国立公園」案が多数意見として承認されました。しかし「十勝を入れる」理由が「観光客や利用者に地理的な位置を分かりやすくする」ということでは国立公園の意義を損なうものです。
名称に「十勝を入れない」という声は、パブリックコメント提出意見14件のすべてにもあります。北海道内の自然保護団体・山岳団体も要望書を提出しています。また、日高地方の方々の声を反映する日高町村議会議長会も十勝を含めない旨の要望書を提出しています。
「十勝を入れない」理由には、「日高山脈は日高と十勝にまたがっており、日高山脈の名称の中にすでに十勝が内包し十勝を入れることは屋上屋を架す」、「日高山脈に内包されていない十勝、つまり十勝平野には海岸部を除き国立公園として保存すべき貴重な自然はない」などがあげられます。
しかし、自然環境部会にはそれら「十勝を入れない」との要望文書すら資料として提出されておらず、極めて公平性に欠けるものです。十分な資料を委員に提供し再度の審議を求めます。
この署名を環境大臣宛に提出する以外の目的に使用することはありません。
日高山脈を含む新国立公園の名称になぜ「十勝」を入れるべきでないのか
北海道自然保護連合(十勝自然保護協会・大雪と石狩の自然を守る会・ユウパリコザクラの会・南北海道自然保護協会・一般社団法人北海道自然保護協会)
環境省は日高山脈をどうとらえているのか
環境省は、2023年11月9日発表の「日高山脈及び襟裳岬並びにその周辺地域を構成地域とする国立公園(名称未定)の指定及び公園計画の決定並びに日高山脈襟裳国定公園の指定の解除及び公園計画の廃止に関する意見の募集(パブリックコメント)について」の中で「1.背景」として、次のように述べています。
「北海道中央南部に位置する日高山脈は、新第三紀以降に大陸プレート同士の衝突によって生じた大起伏山地です。稜線部から山麓部にかけては自然度の高い森林や河川が存在しており、シマフクロウやクマタカ等の生態系上位種や、特異な地質や環境に対応した固有種及び希少種の生育地等となっています。海岸部には襟裳岬等の発達した海食崖や海成段丘が見られ、浅海域から高山帯に至る生態系が流域単位で健全な状態で存在しているなど、多様で良好な自然環境を擁しています。
日高山脈の稜線部には北海道で唯一の典型的な氷食地形が分布しており、カール(圏谷)などのダイナミックな地形と高山植物や雪氷とが織りなす山岳景観は、当該地域における景観要素の核心です。(中略)
このように、本公園は地殻変動を受けて形成された非火山性連峰を基盤に、山地を核として育まれた深く原生的な森林生態系及び我が国最大の原生流域面積を持つ河川を軸として、これらが海域まで一体的につながる景観を有する、我が国を代表する傑出した自然の風景地であることから、国立公園として新たに指定するものです。(後略)」
まさに、これが日高山脈の国立公園化の意義のすべてを述べています。原生的自然が現国定公園よりも大きく拡大し日本最大になり、また、飛び地状態だった襟裳岬周辺、アポイ岳周辺と一体化しました。この説明自体から新国立公園の名称は「日高山脈国立公園」が最適であるといっていいでしょう。
名称に「十勝」を入れるべきではない理由
2024年1月のパブリックコメント結果公表以降、2月になってから、名称を「日高山脈襟裳十勝国立公園」とし、「十勝」を入れるべきとする要望が周辺13市町村首長から提出されています。以下にその非合理性を指摘し、論理的にも、常識的にも、また国立公園における行政的視点からも新たな国立公園の名称は「日高山脈国立公園」が最適である理由を述べます。
1 日高山脈という名称は定着した地理的固有名詞です。日高山脈の領域は、地理的・行政的に日高(振興局)と十勝(総合振興局)にまたがっているので、日高山脈の名称の中にすでに十勝は内包しています。したがって、十勝を入れることは、屋上屋を架すこととなり、論理的におかしいことになります。
2 日高山脈という名称は、小中学生の地図帳にも明確に記載されております。したがって、周辺市町村長会の要望理由のように、十勝を加えることで「観光客や利用者に地理的な位置を分かりやすくする」必要もありません。
3 「日高山脈」と「十勝」を並置するならば、日高山脈に内包されていない十勝、つまり日高山脈に近接する十勝平野には国立公園として保存すべき貴重な自然がある必要があります。しかし、私たちは十勝平野には、湿地・湖沼群を有する海岸部を除き、そのような貴重な自然はないと考えます。十勝平野は、広大で整然とした畑作・酪農を中心とする日本の代表的穀倉地帯であり、本来の意味での自然はほとんど残っていません。したがって、国立公園の名称にはふさわしくありません。むしろ「農業王国・食糧基地・広大な平野」というイメージの強い「十勝」を加えることによって、上記の原生的環境を特色とする公園計画の本質が極めてあいまいになります。国内の国立公園の名称には2つあるいは3つの地域名が並置されているものがありますが、それは、それらの地域が飛び地になっており、またそれぞれの地域に国立公園として保存されるべき貴重な自然があるためと考えられます。
4 「十勝平野から眺める山並みは雄大」です。しかし、西方に日高山脈の山並みが見える十勝平野中央部からも、北方には、十勝岳連峰、トムラウシ山、然別火山群、東大雪を含め大雪山の雄大な山並みも見えます。これらの山々は大雪山国立公園に含まれ、位置的には新得町、鹿追町、士幌町、上士幌町の各町の範囲に入ります。しかし、この大雪山国立公園の名称に十勝を加えよとの声は全くありません。東方の阿寒摩周国立公園の雌阿寒岳・阿寒富士・オンネトー周辺は足寄町で、市街地には雌阿寒岳・阿寒富士が美しく見える丘があります。この二つの山は本別町からも見えます。しかし、阿寒摩周国立公園に十勝を加えよという声は全くありません。眺望を理由に名称に「十勝」を加えることは奇異と言ってもよいでしょう。
5 本来国立公園として保全すべき地域以外の地名を国立公園周辺市町村の要望によりその地域名を入れることは、環境省が本来行うべき環境・自然保護行政を歪曲するものです。そのような前例を作ると、今後国立公園周辺の市町村から同様の要望が出てくると認めざるを得なくなるのではないでしょうか。悪しき前例を作ることになります。
6 今回のパブリックコメント意見募集の結果によると、提出された意見は127通、その中で名称に関する意見は14件ありますが、そこには襟裳を入れて欲しいとする意見は2〜3通あるようですが、十勝を入れて欲しいとする意見はありませんでした。十分に尊重すべきです。
「襟裳」はどうする
新しい国立公園の範囲は、公園計画では「日高山脈一帯、アポイ岳周辺、豊似湖周辺、襟裳岬やその周辺海域等」です。ここには「襟裳岬やその周辺海域等」が含まれていますが、地理的表現では一般に日高山脈は襟裳岬で太平洋に没していると言われているように、日高山脈の地理的範囲は、北の佐幌岳付近から南の襟裳岬まで約150kmです。公園の範囲になる日勝峠から襟裳岬まで日高山脈そのものです。
今回は、指定地域の大幅な拡大により飛び地問題は解消され、文字どおり日勝峠から襟裳岬に至る日高山脈そのものになりました。「襟裳」は「日高山脈」に内包されており、「日高山脈襟裳国立公園」とする必要はないと考えます。
なお、襟裳岬と周辺海域を今後は「海域公園」(海中・海上を含む海域の景観や生物多様性を保全するため国立・国定公園内に指定される保護区)として設定が想定されるかもしれないとの観点から残しても良いという見解もあります。
自然環境部会で審議のやり直しを!
2月22日の中央環境審議会自然環境部会で「日高山脈襟裳十勝国立公園」案が多数の意見として承認されました。部会には自然保護団体・山岳団体や日高町村議会議長会の要望書など「十勝を入れない」との文書すら資料として提出されませんでした。「十勝を入れる」理由が「観光客や利用者に地理的な位置を分かりやすくする」ということでは国立公園の意義を損なうものです。
私たちは、部会の進行が極めて公平性に欠けるため、十分な時間の確保と適切な資料を委員に提供したうえで再度審議するべきことを求めます。